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1話
その日は暑かった。死ぬほど暑かった。
外は陽炎とかいうやつがゆらゆら浮いていて、景色が歪んで見えた。外に出たら溶けてなくなるだろうと思った。だからプールに行こうという友達の誘いを断って、クーラーをガンガンに効かせた一階のリビングでアイスを食べながらテレビに食らいつき、ひたすら指を動かしていた。
八月の頭だった。夏休み真っ只中だ。机の上には一応夏休みの宿題が置いてある。けど、やる気なんて全然ない。俺はいつも夏休み最後の日になって足掻くのが好きなのだ。
画面に全神経を注いでゲームに熱中していると、戸が開いた。建付けが悪く、開くたびにガタガタいう。戸が開いた瞬間、熱気が廊下から流れ込んできて不愉快だった。俺はムッとしてドアを開けた犯人を睨む。兄貴だった。兄貴はサッカー部で、こんな炎天下の中でも練習を欠かさない。馬鹿みたいにボールを追いかけている。俺から見たら、ドMの変態だ。汗だくの格好を見ているだけでも暑くなる。
「お前なんでいるんだよ」
開口一番兄貴はそう言った。俺たちはあまり仲がよくない。喧嘩腰の科白に、やはり喧嘩腰で応戦する。
「はあ? いちゃ悪いか」
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