こたつの神さま

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「…は?」 「行儀が悪い。箸はもう少し上を持ちなさい」 「えっ…えっ?」 辺りを見回しても誰もいない。 こたつ布団をめくっても、もちろん何もない。 「落ち着け。姿は見えない」 「…誰」 ここ事故物件だっけ? そのわりに家賃安くないんだけど! 「俺は今お前が座ってる、こたつだ」 「…こたつ」 「物を長く使うと魂が宿ることもあるだろう」 「そういうのって普通イケメンの姿にならない?」 「ならねえよ」 「なりなさいよ!あるだけで邪魔なんだからせめてイケメンになりなさいよ!」 「邪魔とはなんだ邪魔とは!入れば暖かいしテーブルにもなるぞ!」 「夏は暑いでしょ!」 「夏は布団をしまえ!」 「こんな年季の入ったこたつがあったら彼氏も呼べないわよ!」 「彼氏が出来てから言え!だいたい、おばあちゃんの家にあったこたつをバカにするやつとなんか付き合うな!物を大事にしないやつが女を大事にすると思うか?」 「うっ」 たしかに、大事にされた記憶があんまりない。 「いいから電源を入れろ、温かいぞ」 「…電気代…」 「そんなに言うなら電源の代わりに湯たんぽを入れろ、お前の祖父母がよくやっていた」 「…おばあちゃんそんなことやってたんだ…」 電源を入れると膝が熱い。 小学校の頃のお正月を思い出す。 お雑煮とみかんとお年玉。 「早く食べろ、冷めるぞ」 「誰のせいだと?」 箸を少しだけ持ち直す。 使っていたテーブルと高さが違うから食べにくい。 足が温かい。 「…お腹いっぱいになったら眠くなりそう」 「起こしてやろうか」 「…こたつに起こしてもらうってどういうことなの…せめてイケメンになれないの…?」 こたつと会話してるこの状況がそもそもどういうことなの… プレートも箸もそのままに横になる。 実家感が、ものすごい。 床が硬くて、ソファーを買うつもりだったお金でカーペットを買おうと思った。
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