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父からもらったポチ袋をあける。五千円。大学受験を控えているので、金額に文句はつけない。晴れ着の女性とすれ違いながら、大通りを抜けた先の紳士服専門店にたどり着く。
ショーウィンドーのマネキンを見上げて、一人で頷く。
「すみません、プレゼント用でお願いしたいんですけど」
男性店員は張りのあるスーツで接客にあたる。私の選んだネクタイが包まれていく。リボンの色はゴールドにしてもらった。
明日は母の命日。親子二人でお墓参りに行くときの、父のネクタイを私が選ぶようになって五回目だ。少しかっこよくなった父に会えれば、きっと天国の母は喜んでくれる。足取りの軽くなった帰り道、空は綺麗なオレンジ色だった。
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