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第3章 駅に転がっていた運命【青年語り】
いけないものをもらってしまったような感覚があった。
いいことに使わなければいけないプレッシャーを感じていた。
理由はよくわからないが、理屈じゃなくそう感じた。
俺は、駅近くの食堂で1000円の『バランス満点スタミナ定食』を食べた。
タバコとか、ゲームとかには、このばあちゃんのお年玉は使えないと感じた。
駅に着き、カードに電車賃をチャージしようと券売機のところに並んだ。
ひと気のない寂しい駅の蛍光灯は、やけに明るく見えた。
券売機の前で男性が何やらあわてた様子でバックの中をあさっている。
「あれ、あれ?財布…」
俺のほうをチラッと見たその人は、年配の男性で、戸惑った表情をしていた。
「あ、お先にどうぞ。」
俺は軽く頭を下げ、チャージをした。
そして、近くの自販機で体を温めようと缶コーヒーを買い、すぐに飲んだ。
体がじんわりと温かくなる。
飲み終えて缶を捨て、ふと見るとまださっきの男性がバッグの中をあさっていた。
何か中で作業をしている駅員以外、ここには俺しかいなかった。
何となくそうしなきゃいけないような気がして、その人に声をかけた。
「どうしたんですか?」
「ああ、財布を置いてきたのか、無くしたのか、見当たらなくて。。とにかく、今急いで病院に行かないと行けないんだけど、参ったなあ。。」
俺は、あまり深く考えず、ばあちゃんにもらったお年玉を差し出してこう言っていた。
「あの、このお金使ってください。これで今足りますか?」
「え?いやいや、それはできないよ。あ、じゃあ、貸してくれませんか?あの、チャージしたカードも財布の中で…。とりあえず市民病院に今すぐ行かなきゃならなくて。」
「じゃあ足りますね。これは、いいことに使わなくちゃいけないお金なんで、使ってください。あの、余ったら残りのお金でまたいいことに使って下さい。」
俺は、お年玉の残りを無理やり渡し、ちょうど来た電車に飛び乗って大学に向かった。
その男性は、あっけに取られていたけれど、振り返った俺に、何度も何度も頭を下げていた。
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