68人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
タイプがまったく違うのに、よく喧嘩もせず一緒に遊べていたものだ。
――仲よく一緒に?
稲荷山の脳裏に、火花のように記憶の一片が閃いた。
それはかすかではあったが、胸を苦く刺し、じわりと広がった。
嫌な感覚だった。
――……、上履き必死に探してんの、ちょーウケる。
森が指さして笑い、塚本が躊躇いながらも笑い――自分も、笑う。
誰かが――半べそをかきながら、上履きを探し回っていて――
(なんだ、この記憶……なんの)
塚本は森の暴言に、表情を強ばらせた。
「拓哉、本当に忘れたのか? それとも、悪いことをしたっていう自覚は一応あるのか?」
「なっ――」
よほど意外だったのだろう。
森は蒼白になり、唇をぴくぴくと震わせた。
塚本はそれ以上言葉を継ぐことはしなかったが、どんよりした目で森を睨んでいる。
空気が重く張り詰めた途端、個室の扉がノックされた。
その拍子抜けするほど軽い音に森は我に返り、「どうぞー」といつもの愛想のよい調子で返答した。
「失礼します」
入ってきたのは、店員と同じく黒地に黄色い満月が描かれたシャツを着た、同年代の男性だった。
「『玄兎』の店長を務めさせていただいております、佐藤と申します」
男性は目がなくなりそうな笑顔で頭を下げた。
「さきほどはお料理をお褒めいただいたそうで、大変光栄です。僭越ながら、ご挨拶に参りました」
最初のコメントを投稿しよう!