68人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「あのさ――」
塚本に向けて言いかけたところで、森が割り込んでくる。
「締めのうどん、もう頼むか? 鍋の具材ももうだいぶなくなったし」
「あ、うん……」
このままではどうにも釈然としない。
森のいないところで塚本とサシで話す必要があるな、と稲荷山は思った。
塚本を見ると、渋い表情で頬杖をつき、じっと何かを考え込んでいる。
豊かな肉付きの頬が、手のひらからはみ出ていた。
そして、ゆっくりと顔を上げた。
「思い出した。もう一人のこと」
「えっ?!」
稲荷山と森は同時に疑問の声を上げた。
塚本はどこかが痛むように片頬を歪めた。
「いた」
「本当に? それって――」
その先を訊こうとした稲荷山を制したのは、森だった。
「はぁ? バカ言うなよ、いねーってそんなやつ。アタマおかしいんじゃねえの」
ほとんど罵倒に等しいその威勢には、逆に違和感があった。
なぜそこまで強く否定するのだろう。
自分に対しては、架空の存在じゃないか、とにやにやしていたというのに。
森の態度は、あまりに違いすぎる。
「もう一人」は、なにか重大な意味を持っているのだろうか?
塚本と、森。
無口で従順な太めの少年と、活発で調子のいい少年。
そして、成績が多少いいこと以外取り柄のない自分。
よく考えてみれば、つるんでいたのが不思議な組み合わせではある。
最初のコメントを投稿しよう!