IF

11/14
68人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「あのさ――」 塚本に向けて言いかけたところで、森が割り込んでくる。 「締めのうどん、もう頼むか? 鍋の具材ももうだいぶなくなったし」 「あ、うん……」 このままではどうにも釈然としない。 森のいないところで塚本とサシで話す必要があるな、と稲荷山は思った。 塚本を見ると、渋い表情で頬杖をつき、じっと何かを考え込んでいる。 豊かな肉付きの頬が、手のひらからはみ出ていた。 そして、ゆっくりと顔を上げた。 「思い出した。もう一人のこと」 「えっ?!」 稲荷山と森は同時に疑問の声を上げた。 塚本はどこかが痛むように片頬を歪めた。 「いた」 「本当に? それって――」 その先を訊こうとした稲荷山を制したのは、森だった。 「はぁ? バカ言うなよ、いねーってそんなやつ。アタマおかしいんじゃねえの」 ほとんど罵倒に等しいその威勢には、逆に違和感があった。 なぜそこまで強く否定するのだろう。 自分に対しては、架空の存在じゃないか、とにやにやしていたというのに。 森の態度は、あまりに違いすぎる。 「もう一人」は、なにか重大な意味を持っているのだろうか? 塚本と、森。 無口で従順な太めの少年と、活発で調子のいい少年。 そして、成績が多少いいこと以外取り柄のない自分。 よく考えてみれば、つるんでいたのが不思議な組み合わせではある。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!