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稲荷山博嗣が居酒屋『玄兎』に到着すると、既にほかの2人は座ってメニューを開いていた。
店員に案内されて入口のところにきた稲荷山に気づき、「おお、久しぶりぃ!」と手を振ったのは森拓哉だ。
小学校を卒業して以来会っていないが、顔立ちも雰囲気もすぐに彼とわかった。
「お揃いでしょうか?」
店員は幹事の森に訊く。
「ああ、始めてくれる?」
「ごめん、待たせたかな」
稲荷山は扉の内側の三和土で靴を脱ぎ、畳の個室に上がった。
「いや、俺達もさっき着いたとこだよ。なあ? ブテン」
「ん? あ、うん……」
メニューから顔を上げ、くぐもった返事をした恰幅のいい男は塚本武典だろう。
小学生のころから太めではあったが、ますます脂肪がついたようだ。
髭が生えたことをのぞけば、彼もそれほど変わっていない。
「ハカセ、ビールでいいか?」
「子どものころのあだ名はよしてくれよ」
稲荷山が苦笑すると、森は大袈裟に首を振る。
「だって、実際に博士なんだろ? すげえよなあ。ガキのころからハカセって呼んでた甲斐があるわ」
「正確には博士じゃないよ。博士課程中退してるから……」
「なーに言ってんだよ、同じようなもんだろ。ま、座れよ」
促され、稲荷山は塚本の隣に腰を下ろした。
「いやーそれにしても久しぶりだよなあ。20年くらいか?」
「そうだね、僕は中学が別だったから22年ぶりかな。塚本と森は?」
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