69人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「森じゃなくて?」
「拓哉はそのあとだ。それは覚えてる」
店員が運んできた新たなグラスを受け取り、塚本は水面をじっと見た。
「最初に犯人がわかったやつがいて、俺はそいつから聞いたんだ。で、そのあとで拓哉が、自分が一番乗りだって言うから、違うぞって、そしたら怒って――」
――オレ、犯人わかったぜ。競争はやっぱオレの勝ちだな!
――え? オレ……から教わったけど。
――んなわけねえだろ、あいつにそんなことできるわけない。
――いや、だけど……
――うるせえなブタ。またお前のことブタンて呼ぶぞ。
「あ」
稲荷山の記憶の靄から、何かが姿を現しかけていた。
「もう一人……」
もう一人、誰かが――いたのではないか?
「塚本、そいつの名前、覚えてる?」
彼は眉を寄せ、「思い出せない」と呟いた。
2人して思い出せないというのは、どういうわけだろう。
あまり親しくはなかったのだろうか。
ただのクラスメイトか?
しかし、同じゲームを買った「もう一人」の存在が、にわかに意識されてきた。
あのころ自分たちは、4人組だった――のか?
双方とも黙り込んでいると、個室の扉が開いて森が戻ってきた。
「いやあ、うっかり隣の部屋入るとこだったわ。女の子の声がしてさ」
「あのさ、森、ゲーム仲間、もう一人いなかったか?」
森は「いいや?」と顎を引いた。
「そりゃ、そのゲーム買ったやつはほかにもいたろうよ」
最初のコメントを投稿しよう!