一線

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クリスマスにかこつけて、例の郷ちゃんプロデュースのデートへ連れて行って貰った。 完全に行き先を伏せられておでかけなんて初めてで、昼過ぎの時間帯、彼の後に付いて降りた駅で不安に駆られる。 「えーっと。どっちだっけなぁ」 「……道、わかる?」 つい癖で訝ってしまうが、今日は出しゃばらないという決め事を思い起こし、口を噤んだ。 「わかるか、わからないか」 ぶつぶつ言っている人を怪しんだまま手を引かれて行くと、特に間違いもせず目的地に到着したらしかった。 「……植物園……?」 文句を付けていた先程までの自分は棚上げして、途端テンションが高まってしまう。 花が大好きな上、見渡せる景色から察するに、夜はライトアップが楽しめそうだ。 近頃は荒くれていたものの、元来ただのミーハー女子なのだ。これぞ冬デートの定番、ロマンチックなイルミネーションに心躍らないはずはない。 「郷ちゃん……ナイスチョイス……やれば出来る子」 「だろ」 上から目線ながら褒め称えると、彼も得意げに笑顔を零した。 温室の色鮮やかな花々を堪能した頃、日没が訪れた。 いよいよ点灯の時刻が迫ると、闇に包まれた庭園で繋がれた手に力が篭められる。 合わせた瞳が柔らかく綻んだその時、煌びやかな灯りで辺りが埋め尽くされる瞬間を迎えた。 ぱっと華やいだ郷ちゃんの、一点の曇りなく楽しげな顔を目に映した瞬間、どういうわけか目頭が熱く、込み上げるものが押し寄せて顔を背けた。 彼は直ぐ景色に夢中になっていたから、溢れた涙に気付かれていないだろうか。
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