炬燵輪舞

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「父さん……?」  着信は義父からで、電話に出るなり「迎えに来ないと食い散らかすぞ」と一言言われて、花栄は切れたスマホに向かって「はぁあっ!?」と叫んだ。 「還暦前のオヤジが、ふっざけんなよ!」  義父の花緒は穏やかで温厚だが、家系なのか男らしく日本人離れした顔をしている。  同じ血を継いでいる花栄も、顔が良く似ている為に花緒が義父であると見た目でバレた事は無かった。  お蔭で義父が年齢の割にモテる事も知っている。その上ゲイで、バリタチだ。  あり得ないと頭では分かっているのに、居ても立っても居られない花栄は身支度もそこそこに家を飛び出した。  二十代の前半から子育てに追われていた花緒は、恋人を失くした隙間を埋める様に花栄に直向きに愛情を注いでくれたが、花栄が丁度小学校に上がる頃、知らない男が家に出入りしている事に気付いた。毎日では無かったし、毎回一緒じゃない。  でもそれでも、学校から帰ると擦れ違いざまに知らない男が家から出てくるのを何度も目撃していた。そしてそれがただの友達では無い事も、子供ながらに気付いてしまったのだ。 「父さんっ!」  実家に帰るなり怒鳴り込んだ花栄は、子供の様に靴も脱ぎ散らかしていつも義父がテレビを見ているであろうリビングの扉を勢い良く開けた。  そこには義父の姿はなく、代わりに立派な炬燵にスッポリ収まって眠っている志信の背中があった。 「……煩い、バカ息子」  後ろから後頭部を叩かれた。
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