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……ようするに、アレは偶然紛れ込んだものなんかじゃなくて、ヤツらが意図して密輸したってことか……ところが、あの黒服達がとんだ大マヌケだったがために、その大事な商品の隠してあるハンドバッグまで福袋に詰めて、あろうことか、それに気付かぬまま初売りで売っちまったというわけだ…………つまり、この俺に。
無論、ヤツらはカタギの商売をしている類の人間ではなかろう。察するに、あのアウトレット店を隠れ蓑にして、これまでにも薬の密輸を繰り返していたに違いない。海外ブランド品ならば、頻繁に輸入していても怪しまれないし持ってこいのダミー商売だ。
大方、あの妙に色っぽい外国人のお姉さんは、水商売してたとこを店主としてスカウトされたか、あるいはそういう店で口説かれたヤクザのオンナってところだろうか?
「…………ああん?」
と、猛スピードで大脳新皮質を回転させ、そんな推理を働かせていた俺を、不意に振り返ったパンチの男が黄ばんだ眼で鋭く睨みつけた。
……や、ヤバっ!
「あ、あれ~? 有名なチーズタッカルビの店、確かこの辺りの店だと思ったんだけどな~……」
「何見てんだコラ」という無言のその威嚇に、俺は慌てて道に迷った通行人を装うと、なるべく目を合わせないようにしながら、そそくさとその場からの離脱をはかる。
「チッ……おい! なにいつまでも突っ立ってんだコラっ! とっとと捜しに行けやこのアホンダラっ!」
「へ、ヘイ! すいやせん!」
急いで、だが、怪しまれぬよう慌てずに遠ざかる俺の背後で、そんな舌打ちをするパンチの怒号と、またドヤされて、蜘蛛の子を散らすように駆け出す黒服達の気配がする。
「フゥ…………」
どうやら気に留められることなく離れられたようだが…………さて、あのブツはどうしたらいいものか……。
充分に距離をとってから大きく安堵の溜息を吐くと、俺はなおも逃げるように家路を急ぎながら、今後の身の振り方について独り思案する。
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