こたつの囚人

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そう、このゲーム、なにも食べるのはテーブルの上に残っている蜜柑で無くてもいいということに。 やつが視線をテーブルに向けてルール説明をしたのはフェイク、事実一言もあのテーブルの上の蜜柑を食べた者が勝ちとは言っていない。 そしてこう考えるならば、もうひとつある。論理のマジック、隠されたルールが。 それはやつが禁止した事項について。やつは言った『あれを取ってもらうのは禁止』と。 つまり許されるのだ。あれ以外の蜜柑を"買ってきてもらう"ことは。 すべて繋がる。バラバラだったピースが組合わさっていく。 ルールの穴、家にある蜜柑の残量、その場での即勝ちを捨てれるやつの余裕。 そして、ここにいない存在。 間違いない、やつは頼んだ。ゴルフに向かう父に。 帰りに蜜柑を買ってくるようにと。 父はやつには逆らえない。権力もそうだが、なにより父はやつにベタぼれだからだ。まず真っ先にやつの手元に蜜柑を渡すだろう。 最初からやつが圧倒的優勢のゲーム。勝敗条件は当初提示されたものとはまるで違う。 つまり ・父が帰宅したらやつの勝ち ・父の帰宅までに何らかの手段で蜜柑を食べれば俺の勝ち これはそういう勝負だったのだ。 こうなると事は一刻を争う、もうそろそろ父はコースを回り終わる頃だろう。あと二時間としないうちに帰って来てしまう。……だが。 俺はちらりと目を向ける。必勝の鍵、その残骸に。 これは食えない……! 実の母親の鼻汁がべったりついた蜜柑の皮、いやむしろこれは蜜柑の皮がついた母親の鼻汁と言った方がいい。 これはどうしても食えない……!
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