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いや待て。まだ諦めるには早い。俺にも手は残されている。
俺も買ってきてもらえばいい。黒田に。あるいは家にあるものを持ってきてもらうだけでもいいはずだ。あの言葉通りのルールなら。
だが念には念を。一応の確認はしておくか。
「母さん、あのテーブルの蜜柑を第三者に取ってきてもらうことだけが禁止なんだよね?」
「そうよ」
よし、完璧だ。すぐさま俺は黒田にメッセージを入れる。
『みかん家に余ってない?』
数秒で黒田からレスポンスがあった。さすが、こういう時に頼れるやつだ。
『あるよ』
『悪いんだけど、ちょっと持ってきてくんね?』
またすぐに新着メッセージを告げるバイブがなる。
『やだよ、さみーもん』
『そこをなんとか』
『買いにいけよ』
『家出れないんだよ。1000いや2000円やるから!たのむ!』
『まじ?引き受けた!』
よし、黒田の買収は成功だ。
2000円、もちろん安い出費じゃない。だが、三倍づけがあれば払ってもだいぶお釣りが出る。
これで今度こそ俺の勝ちだ。俺は内心ほくそ笑みながら、やつのほうを見る。
「俺の勝ちだよ、母さん」
「あら、そううまくいくといいわね」
なんだあの余裕は。何か見透かされているような。俺の作戦が見きられているのか。いやそんなはずはない。あり得ない。むしろ逆、なにも知らないがゆえの余裕に決まっている。
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