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もちろん断言はできない。そのルールが無ければ俺は鍵を開けておくことができた、とは。断言はできないが、可能性はもう少し高かった。
やつはこのルールによって、俺に心理的な枷を嵌めたのだ。その結果、俺はさらに不利な状況に追い込まれた。
勝敗に直結しうる第三者の利用をやつのみができるという状況に。
この状態で家に入ることが可能なのは当然、やつの傘下である父のみ。
俺の友軍は一兵たりともこの城に侵入できない。まるで敵陣に取り残された哀れなスパイが如く。
俺の携帯が派手なブザーを鳴らす、しびれを切らした黒田が電話をかけてきたのだ。
「すまん、いま鍵開けられないんだ」
『ハァ!?せっかく来てやったのに!?』
「すまん」
『まあいいけど。2000円はきっちり貰うからな!あとみかん玄関の前に置いとくぞ!』
「ああ」
そう言って俺は通話を切った。
意気消沈、もはや俺の敗けは決した。もう間もなく父が帰ってくる。
それまでの残り少ない時間を俺は漫然と過ごした。事実、もはややれることは皆無。いっそのこと潔くこたつから出てしまう方がまし。死を待つだけだった。
漫然と寝転び、漫然とテレビを見て、全てを諦めた。
ふりをしていた。
その実、まだ俺には残されていた。起死回生。その策。
いやよそう。こんなのは正直、策とは呼べない。無法、タブーを犯す禁断の術。
つまりは力づく。
父が帰り、母に蜜柑を渡す瞬間、それを強奪する……!
もうそれしかない。
だからこそ今は、諦めたふりをする。
母に渡される蜜柑を強奪するには俺の席からでは遠すぎる。少なくともこたつに潜って、父の席まで行く必要があるのだ。
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