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そんな俺の考えなどお構いなしとばかりに、やつは俺が見ていたテレビのチャンネルを一言の断りもなしに変えてしまう。
年末特番のネタ番組から、見たくもない韓流ドラマの一挙放送に切り替わっても、俺には何も言う権限などないのだ。
「いやちょっとだけ待って!次、俺が一番好きな芸人なの!そこだけ見させて!」なんて懇願すら通らない。
ヒエラルキーとはそういう絶対的な秩序なのだから。
しかしまあ、せめて嬉々として見てくれれば良いものを、やつはまったくつまらなそうに見ている。
それもそのはず、やつは韓流ドラマが好きなわけでもなんでもない。ただの気まぐれでチャンネルを変えているだけだ。
そのためか、ドラマを見始めて数分でやつが口を開いた。
「幸也さぁ、蜜柑たべたくない?」
「いや、俺さっき食ったしいいかな」
「あ、そう」
魂胆が見え見えだ。つまりは自分は蜜柑を食べたいが、それを取りにこたつを這い出し、およそ3メートル先のダイニングテーブルに行くのが億劫なだけ。
だから俺に自分の分を取ってこいと、つまりはそういう事だ。怠惰かつ強欲。なんと浅ましい我が母よ。
しかしその手には乗るか。俺は忙しくスマホを弄っているふりをし、『頼み事をしづらい空気』を造り出している。
さらに数分して、またもやつが口を開く。
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