こたつの囚人

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「幸也さぁ、暇じゃない?」 なんだそれは。暇だったら蜜柑を取りに行けと、そう言いたいのか? というかそもそも俺が暇にしているのは、あんたがチャンネルを勝手に変えたせいなんだが? 「……ま、まあ。でも蜜柑くらい自分で取りに行きなよ……」 辛うじて絞り出すように、反旗の言葉を紡ぐ。多少の罵倒や舌打ちを覚悟したが、次にやつから出た言葉は俺の想像の範囲外のものだった。 「じゃあ私とゲームしない?」 「───は?」 自身の頓狂な声に一瞬驚いたが、すぐさま冷静さを取り戻す。やつからの提案、ただの遊戯(ゲーム)な訳がない。集中を切らしたら敗けだ。 「だって暇でしょ?パパはゴルフで夜まで帰ってこないし」 「そりゃ、そうかもだけど。なんだよ急にゲームって?トランプでもするの?」 「嫌よ、第一トランプなんてどこにあんのよ。あんたが物置から探して取ってきてくれるの?」 やはりというか自分で取りに行く選択肢は、毛頭どころか細胞一粒すらないようだ。 「簡単な我慢比べよ」 「我慢比べ?」 「そ、ルールは超シンプル。先にこたつから全身出た方が敗け」 あまりにシンプル、ゲームとしては成立し得ない。だからこそ不安。不安が募る。 「……まさか押し出しあうってこと?」 「まさか!力比べなら私があんたに勝てるわけないじゃない」 はて、それはどうだろう? 「第一、最愛の息子に暴力なんて振るえる訳ないでしょ」 なんと恐ろしいこの女。俺は"押し出しあい"といった。 手押し相撲の経験がある者なら分かると思うが、力比べではあっても痛みを伴う要素がないのが"押し出しあい"という競技だろう? それをやつは暴力にまで昇華させようとしているのか。
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