1人が本棚に入れています
本棚に追加
「幸也さぁ、暇じゃない?」
なんだそれは。暇だったら蜜柑を取りに行けと、そう言いたいのか?
というかそもそも俺が暇にしているのは、あんたがチャンネルを勝手に変えたせいなんだが?
「……ま、まあ。でも蜜柑くらい自分で取りに行きなよ……」
辛うじて絞り出すように、反旗の言葉を紡ぐ。多少の罵倒や舌打ちを覚悟したが、次にやつから出た言葉は俺の想像の範囲外のものだった。
「じゃあ私とゲームしない?」
「───は?」
自身の頓狂な声に一瞬驚いたが、すぐさま冷静さを取り戻す。やつからの提案、ただの遊戯(ゲーム)な訳がない。集中を切らしたら敗けだ。
「だって暇でしょ?パパはゴルフで夜まで帰ってこないし」
「そりゃ、そうかもだけど。なんだよ急にゲームって?トランプでもするの?」
「嫌よ、第一トランプなんてどこにあんのよ。あんたが物置から探して取ってきてくれるの?」
やはりというか自分で取りに行く選択肢は、毛頭どころか細胞一粒すらないようだ。
「簡単な我慢比べよ」
「我慢比べ?」
「そ、ルールは超シンプル。先にこたつから全身出た方が敗け」
あまりにシンプル、ゲームとしては成立し得ない。だからこそ不安。不安が募る。
「……まさか押し出しあうってこと?」
「まさか!力比べなら私があんたに勝てるわけないじゃない」
はて、それはどうだろう?
「第一、最愛の息子に暴力なんて振るえる訳ないでしょ」
なんと恐ろしいこの女。俺は"押し出しあい"といった。
手押し相撲の経験がある者なら分かると思うが、力比べではあっても痛みを伴う要素がないのが"押し出しあい"という競技だろう?
それをやつは暴力にまで昇華させようとしているのか。
最初のコメントを投稿しよう!