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しかし、だとすれば。このゲームまったくの破綻だ。
「我慢比べなんかになりゃしないじゃんか。お互い蜜柑を取りに行くのも嫌なくらい、このこたつから出たくないんだからさ」
やつはふふふ、と不適な笑みを浮かべる。
「今言ったのは敗北条件よ?このゲームには勝利条件もあるわ」
「と、言いますと?」
「ずばり蜜柑を食べた方が勝ち」
そういってやつはテーブル上の蜜柑に目を向ける。大きめな皿に、乗せられた蜜柑の残数はすでにラスト一つとなっていた。
「え、というかもう一個しかないの?この前まで箱で積んであったのに」
「何よ、私は五個くらいしか食べてないわよ」
嘘だ。父はそんなに柑橘類が好きじゃない。レモンハイレモン抜きなんて注文をする輩だ。一、二個ならまだしもそんな大量の蜜柑をとても食べたとは思えない。
かといって俺も先程のでやっと四個目、考えられる犯人は自分しかいないのに、なんと白々しい。
やつにとって1~30個くらいまでは"五個くらい"の誤差ということか。
まあいい。目下大事なのはこのゲームの方だ。
「つまりこたつから全身を出さずにあそこの蜜柑を食べられれば勝ちと?」
「まあ基本的にはね、ただどんな手を使ってもいいけど、人にあれを取ってきてもらうのは禁止」
ほう。
「あんたの場合だと黒田くん?だっけ?まあとりあえず近場の友達に手当たり次第電話かけて、こんなゲームに付き合わせてもいいかもだけど、私みたいないい大人がそれをやるわけにはいかないし、不公平でしょ?」
不公平に両足をくっ付けたような人間がそんなことをよくもまあ、と思わなくもないが、ここは一応理が通っている。
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