こたつの囚人

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しかしながら、その後数十分、両者ともに静観の時間が流れる。 当然だ。蜜柑があるテーブルまで3メートルほど、蜜柑自体との距離はさらにある。 身長175cmの俺が、一番テーブルに近い父の席まで潜って行き、そこから全身を使って手を延ばしてもまだ50cm以上も足りない計算だ。 とても届かない。だからとりあえずは探す。周囲にある使えそうなものを。 まずはテレビのリモコン。これは圧倒的に長さが足りないので没。 次にハンガー、これも長さが足りない上、安定性もわるく、下手に使えばやつの手元に蜜柑を落とす危険もある。故に没。 携帯の充電コード、届いたとしても蜜柑にひっかかる気がしない、没。 ふぅ、やはり全没か。一筋縄では行くまい。 しかし、必死に使えるものを探していた俺が、ついにあるものを捉えた。 その瞬間、俺の脳裏に天才的な閃きがよぎる。 ある!あった!答えへの抜け道が……!隠し扉が……! 俺が見つけたものは、テーブルの蜜柑の確保に使えるもの、などでは到底ない。 いやむしろ、それ以上。 つまり蜜柑そのものだ。 どういうことか。こたつの上に蜜柑があったらゲームにならない、誰もがそう思うだろう。しかし大丈夫。なぜならこれは抜け道、普通なら蜜柑と識別されないもの。 俺がさきほど食べ終えた蜜柑の"皮"なのだから。 やつは蜜柑を食べろとは言ったが、果肉を食えとは言ってない。皮だって立派な蜜柑だ。 だが少しかじって吐き出したら、それは食べたことにはならない。少なくとも一口、それを噛み飲み込む必要がある。 なに、安いもんだ。これでお年玉三倍なのだから。 母さん、この勝負俺の勝ちだ。 俺の手が眼前の蜜柑(の皮)に伸びる。 しかし届く寸前。 拐われた。勝利への蜜柑(の皮)が。 朝海の手によって。
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