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第一夜 風流探偵見参
「人食いの部屋……ねえ。まったく。こんなものを信じているなんて、みんなどうかしているよ」
ひょろりと背の高い青年が、一つのドアの前に立ち止まった。
少し長めのさらさらとした黒髪と対照的に色の白い、なかなかの美青年である。
夏場でもひんやりとした長い廊下に、彼の声が小さく木霊した。
「でも、お兄様。この部屋で一晩過ごした人は、みんなみんな、命を取られていますわ」
その声に応えたのは、一人の少女であった。
彼女は心配そうに青年の顔を見上げた。
彼女は彼の妹で、青年によく似た美しい顔立ちだった。
青年は少女の不安を消し去るように笑った。
「それこそ、迷信さ。その話はもう百年以上前のことなんだろう?いい加減、呪いも消えているさ」
「でも……」
尚も少女は食い下がった。少女の胸には言いようのないどす黒い不安が、
じんわりと黒インキを零したかのように広がり始めていた。
いつもは押しの弱い妹の、感じたことのない激しい気配に少し怯みながらも、青年は努めて明るく言った。
「なあに。大丈夫さ。ただの迷信だよ」
そう言うと、青年は妹に軽くウインクし、鍵穴に鍵を差し込んだ。
「お、お兄様」
大きく軋むような音を立てて、開かずの間は口を開けた。
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