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長年使われていないだけあって、むっとするような埃とかび臭さに、思わず少女は顔を背けた。
「さてと、まずは大掃除でもしようかな?おっと、手伝いは不要だよ。
そうだな。明日の朝になったら、起こしに来ておくれ。
一緒にこの部屋でコーヒーでも飲もう。
やっぱり迷信だったよって笑いながら……」
そう言って、青年は部屋に消えた。
それが、妹が生きている兄を見た最後となった。
*
締め切りは一週間後。
されど、文章は進まない。
うだうだとパソコンとにらめっこしたって文章が浮かぶはずもなく、ただディスプレイにはうんざり顔した私が歪んで映っていた。
私は溜息を一つ吐くと、椅子を回転させた。
私は小野町子。
一年前にデビューしたばかりの、駆け出しのミステリ作家である。
憧れだった作家という職業に就いたのはいいが、締め切りに追われる生活にはやはり疲れを感じざる負えない。
考えが煮詰まり、焦れば焦るほど筆が進まない。(というか、パソコンだから、指先が動かないが正しいのか)
こんな時は気分転換に限る。
いつも通り私は「彼」の事務所に向った。
彼というのは、銀座に探偵事務所を構える、「自称名探偵」在原業彦のことである。
彼の名前を聞いてぴんときた方もいらっしゃるだろうが、
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