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「ああ、憎し。大徳寺家……。終生まで祟ってみせようぞ……」
そう言い残すと、小夜はさっと小刀で自らの喉笛をかき切った。
真っ赤な鮮血が部屋中を染め上げ、それはそれは凄まじい光景であったという。
それから、一年後。
ある客人が空き部屋となった小夜の部屋に一泊することとなった。
その客人は大徳寺家と同様の元貴族で大徳寺家当主・源蔵と旧知の仲であった風祭子爵であった。
その部屋は既に綺麗に改修され、予備の客室とされていたのだ。
翌朝、女中の一人が風祭を起こしにその部屋の前に訪れた。
しかし、何度声をかけても、ノックをしても中の様子に変化は見られなかった。
風祭という男は元来早起きは三文の徳を考え、早起きを日課としていた人物であることを彼女も心得ていたから、不思議に思った。
そしてもしや、急病かと心配になった。
「風祭様。風祭様。いらっしゃいませんか」
やはり、返答はない。
「風祭様。入りますよ?」
とうとう女中は堪らなくなって、その扉を開けた。そして、そこに棒立ちになった。
なぜなら、そこに風祭が倒れていたからだった。
彼の生命が既に潰えていることは、一目で分かった。
それだけ彼の形相は凄まじいものだったのだ。
彼は胸の辺りを掻き毟るようにして倒れていた。
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