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そう言うと、雪矢は無邪気にパンにぱくついた。
華代はそんな兄を横目で見ながら、そっとドアを閉めた。
それが兄妹の今生の別れになるとも知らずに……。
*
「なるほど。で、翌朝その『開かずの間』を訪ねたら、雪矢さんが亡くなっていたと……」
華代はもう言葉にならないという風に、ハンカチで目頭を押さえると、うんうんと頷いた。
「で……お聞きしたいんですが……。先ほどあなたは言いましたよね。『部屋の様子の何かが気になる』と」
「あ……はい……」
「その正体については……思い出しましたかしら?」
華代はしばらく考え込んでいる風だったが、突然はっと顔を上げた。
「絵ですわ!」
「えっ?」
別にこの反応は……洒落ではないと思う……と信じたい……。
「絵が……どうかされましたか?」
「あの……自信はないんですが……絵の特に女性の着物の色が……前日と翌日では……少し違っていたような気がするんです」
「ほお……。具体的には?」
「ええ……。あのなんて言いますか……色の深みですか?それがなんだか違うような気がしたんです。私、これでも絵を描きますので……色とかにはあの……少しは敏感なつもりで……。でも……光の加減っていうこともありますから……」
「うむ……。絵の着物の色ねぇ……」
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