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月彦はその艶かしい目で一同を見ると、ふと微笑んだ。その笑みはぞっとするくらいに美しかった。
「お……お兄様……」
「だから、僕ら一族の人間は、あまりこの部屋に長居すべきじゃないんだ。そんな訳で失礼しますよ。華代。君も早く出た方がいい」
そう言うと、彼は背を向けた。そして、そのまま言った。
「小夜の怨念に取り殺されないうちに……ね」
「月彦さん」
業彦は、その長い髪が揺れる月彦の背中に声をかけた。
「私には呪いが存在するなんて思えない。そんなものは、我々の迷いが生んだ悲しい幻です。私は……それをきっと証明することができるでしょう」
月彦はゆっくりと振り返る。その美しい瞳に業彦は続ける。
「その時には、この事件の犯人もお目にかけることができるでしょう」
訪れた沈黙。
二人はちょうど、にらみ合うような格好で部屋の中央で向かい合っていた。
互いの目に光る火花。
息を呑むような緊張感。
どれくらいそうしていただろうか。先にその沈黙を破ったのは、月彦の方だった。
「なるほど。さすが、名探偵と呼ばれる方だけある……。わかりました。その日を楽しみにお待ちすることにいたしましょう」
そう言うと、彼は部屋を出て行こうとした。と、その間際、彼は私にそっと耳打ちした。
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