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手にしたお年玉袋。
こいつで「CHIIZU」を買いに行くのだ。常日頃から数々のゲームをやり込んでいる俺だが、毎年冬休みに出るDSソフトには特に目がない。
更にこの「CHIIZU」、RPGだという事以外は何も明かされていない。誰よりも早く手に入れてプレイしたい。
お年玉袋から今年の収穫を取り出す。
1番上の1万円札を早速財布に突っ込もうと手に取ったら、信じられないことが起こった。
「失礼、青年。どうか聞いておくれ。」
なんてこった。
文字通り本当に腰を抜かしてへたりこんだ俺を前に1万円札は早口でこのようなことをまくしたてたように思う。
ふとした弾みで、本物の福沢諭吉の精神が三つに分かれて1万円札に憑依してしまった。
奇跡的に俺のお年玉袋の中で、二枚目と三枚目が再会。
三枚は一所に揃うと元の一枚に戻る。
説明中、お年玉袋から感極まった様子のもう一枚も出てきて勘弁してくれと思ったが、もうそれほど驚かなくなってきている自分がいた。
「私は二枚目だ。」
早口の諭吉は言う。
「三枚に分かれたこの姿は、本来あるべき姿ではない。あまり良いこととは言えないんだ。だから青年、どうか一枚目を見つけて欲しいんだ…!」
なんだそれ、最高だ。どんなゲームより面白いじゃないか。高揚感が体中に溢れて止まらなくなってくる。
「分かった、乗った!」
装備は無し。パーティは喋る1万円札二枚と組んで。
俺だけのRPGの始まりだ。
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