お年玉

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 どんなものでも手に入る大きな金の玉。それを思い浮かべただけでも、興奮が込み上げてきた。今日は長い夜になりそうだ。 *  僕は目覚めてすぐに、服を外出用の分厚いニットと色あせたジーンズに着替えた。寒さに弱い僕は、いつもなら毛布から出るのに一苦労するのだが、起きても頭の中はお年玉に占拠されっぱなしだったおかげで、矢継ぎ早に行動できた。  リビングに行くと、ソファーの上で母上が眠っていた。長年の経験から、母上が父上を言い負かし、父上が寝室に逃げ込んでしまった為に、ここで寝ざるを得なくなったんだろう、ということは容易に推理できた。  僕は母をおこさぬよう、慎重にキッチンへ行き、電子レンジの上に置いてあるバケットの中の菓子パンを二つ手に取って、ゆっくりと家を後にした。    目的地は昨日の夜の段階で決まっていた。僕の両親よりも賢く、尋ねたらなんでも答えてくれる人間──つまり担任の岡野先生である。岡野先生は細身の四十台男性で、頭頂部の毛が薄いにもかかわらず長髪にしているため、生徒には“妖怪ハゲ河童”だとか、“ザビエル”なんてあだ名をつけられている。(僕はそんな低俗な呼び方はしないが)     
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