お年玉

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 言い終えると、岡野先生は僕の肩を引き、学校の中へと案内した。校舎の中は朝方にしては薄暗く、窓から漏れる日の光だけが、一定間隔を開けて廊下を照らしていた。  いつもと違って静寂に包まれている校内はどこか奇妙で、フワフワとした恐怖感をおぼえた。 「ここだよ」  連れられてきたのは四階の廊下の一番端にある、いつもは使われていない教室だった。  この教室に入ったことはないが、教室前にあるロッカーの影がかくれんぼで身を隠すための定番の場所だった為、部屋の存在自体は知っていた。しかし、この中に校長がいるといわれても、全く人の気配が感じられない。物音一つも聞こえてこないのだ。扉の窓はカーテンで遮られ、中がのぞき込めないようにされていた。  ぼくは息をのんで引き戸の把手に手をかけ、横にスライドさせた。建付けが悪く、ドアが激しく振動する音が響く。中に入り、カーテンをどかせてみると、部屋の真ん中集められた机の上で、こけのように白い髭がのびている校長先生が座禅を組んでいた。  目を閉じながら微動だにしない校長先生にやおら近寄って、恐る恐る声をかけてみる。 「校長先生?」  校長は僕の声には反応せず、石像のように固まったままだった。 「先生、お年玉について尋ねたいのですが……」     
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