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その“お年玉”というワードを出した途端、校長先生の目が大きく見開かれ、拡張器越しに言ったかのような大きな声で「お年玉!」と叫んだ。あまりの大声に不快な耳鳴りが響く。
校長は予断も許さぬ勢いで言葉をつづけた。
「お年玉を欲する者、汝の欲望に囚われ、万物の神に終身刑を宣告されるだろう」
「は、はぁ……」戸惑いを隠せない僕。
「黄金の草原に迷いし子羊は、トラに出くわすこともなく喰われてしまうのだ!」
「お年玉を求めるな、ということですか?」
「盲目の騎士はやがて紅潮した土を見ることになる……」
訳が分からなくなってきた僕の後ろで、岡野先生は腕を組みながら何度もうなずいていた。
「分かるんですか?」
「あぁ、校長様はお年玉を授かることのできない僕らに、お年玉を答えることができないとおっしゃられているよ」
「先生たちはもらえないんですか?」
「お年玉はね、大人になると失ってしまうんだよ。だから校長様はもう一度お年玉を取り戻すために、毎年この空き教室で神の啓示を受けておられるんだ」
岡野先生が言い終えると、忽然と校長先生が苦しみ始めた。言葉にもならない断末魔をあげている。「どうしたんですか」と僕が訊くと、代わりに岡野先生が「神が降臨なされた」とつぶやいた。岡野先生は腰を深く下げ、片手を地面について校長先生に敬意を示している。
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