0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
「僧侶様、どうか、どうかご慈悲を」
死んだ子どもを抱えた若い女性が縋るように私に声をかける。
「あ……」
「どうかされたのか」
おろおろとする私を隠して、戦士が女性と話しをする。
その間に、私は勇者様に手を引かれて馬車へと乗り込む。
――勇者御一行の僧侶は生き返らせ魔法が使えるらしい。
そんな噂が広まってからというもの、死んだ子どもを抱えた方、恋人や妻、夫を亡くした方など、淋しさと悲しさとに苦しんでいる人が助けを求めて私に縋る。
私が生き返らせ魔法を使える相手は、勇者御一行として認められた人のみなのに。
悲しげで、縋る姿がフラッシュバックして目頭が熱くなる。
人々を救うのが私、僧侶の役目なのに、どうもしてあげられないなんて。
「モンスターだ!モンスターが出たぞ!!」
馬車の外から悲鳴が聞こえ始める。
走っていく魔法使いが見え、勇者様も私も馬車を飛び出した。
魔法使いを追って戦士が先に走り出していた。
戦士の背中を見ながら、私にもっと力があったなら、と頬を涙が伝っていく。
「メガファイア!」
魔法使いの声が聞こえて、涙を乱暴に拭って顔を上げる。
そうすると、巨大なオークがちょうどこん棒を振り下ろす先に立っている魔法使いが見えた。
逃げていく村人を見つめて、にこりと笑っている魔法使いが赤く染まる。
どうして。
「神よ、勇者に付き従うこの者の魂を呼び戻したまえ!」
横たわる魔法使いの側へ行って叫ぶ。
魔法使いの周りから光が立ち込めて、心臓の方へと集まっていく。
どうして。
攻撃が効かないからって人のためにどうして、命をかける行動ができるの。
人のために自分にできる行動をどうしたら、そこまで追い求めることができるの。
オーク退治が終わって、逃げた村人が魔法使いを囲んでお礼を言っている。
魔法使い、私は貴方が羨ましい。
目の前の人の命を救うよりも、多くの人を救うために、私は最後まで生きて、生き返らせ魔法を唱え続けなければならない。
たくさんの恨みを買いながら、それでも生きていなければならない。
命を捨ててでも目の前の人を救える貴方が羨ましいわ。
言いようのない闇が、心にじわじわと広がっていくのを知らんぷりしながら、回復魔法を唱えた。
最初のコメントを投稿しよう!