~捨てられた忘却姫の物語~

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正面玄関から外に出て、私は歩きながら自分の速くなる心臓を落ち着かせるように何度も深呼吸を繰り返した。 外に出ると、月は明るく、夜風が私の頬を優しく撫でる。 王城から少し離れた場所にある尖塔の細いシルエットが月明かりに浮かんでいた。 私はあの塔を知っているーー? 両手を固く握り合わせ、私は身を震わせる。 「……ファリス」 震えている私の肩を優しく支えるようにして隣に立つ人物にとても安心感を覚えた。 この優しい手はーーロインド様だ。 ゆるゆると視線を向けると、とても心配そうに紅い瞳を細め、私を見ている。 「宿屋を予約しているから休もう」 優しい声で言うロインド様に私は頷く。 ロインド様に連れられ、私はリグナシュ王国の城から離れていった。 高級な宿屋だろうか。 立派な建物に着き、予約してくれている部屋へと案内され、部屋の中には二台ある大きなベッドと円形のテーブル、高級そうな花瓶に入った花が目に入った。 相当、気を張っていたのか私はその日はすぐに眠りに落ちた。 私が眠るまでずっとロインド様が手を握っていてくれていたからか、安心して眠ることもできた。 ーー日中、部屋の外が少し騒がしく私は不思議に思いながら部屋を静かに出てみる。 宿屋のロビーで人々が何か話しているようだ。 「何でも蜂蜜色の少女を捜しているらしい!」 「それもシャルン様が蜂蜜色の少女がいたら城へ来るよう命じているとか」 「ああ、街中の女はそれで騒いでいるってさ!蜂蜜色に染めてまでも城に向かう女もいるってよ」 蜂蜜色の少女を捜しているーー? 不意に怖くなり、私は慌てて部屋の中へと入るようにした。 その様子にロインド様が少し驚いた表情を浮かべながらこちらを見ている。 「ロインド様っ……早くっ…早く、ザフォルドへ帰りましょう」 もしかして、私を捜している? 怖い。 身震いしながら私は身支度を始めた。 それに対し、ロインド様は心配そうに私を見ていたが、何も言わなかった。 宿屋を出て、私は髪の色が分からないように、ザフォルドから持ってきた長めのスカーフを頭に掛けるようにして、髪の色が分からないようにする。 それから、露店に売っている奇妙な仮面を買うことにした。 早く。 早くここから出なければ。 バレたら私はーー
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