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私が顔を俯け、黙っていると嬉しげな表情で口を開くアラン様。
「シャルンは本当に私にはお優しいですわね」
微かに俯く私に、アラン様は勝ち誇ったかのように微笑んだ。
アラン様はシャルン様に大切にされている。
けれど私はただのモノーー
シャルン様の所有物ーーー
嬉しそうにシャルン様の腕に触れるアラン様に対し、表情を一つ変えないシャルン様。
触らないでくださいーー
ハッとした。
一瞬でもそんな感情が自分の心を支配したのだ。
こんな気持ちになってはいけないのに。
それでもシャルン様と親しげな方に嫉妬してしまう。
じわ、と視界が滲む。
それだけは見られたくなくて、私は顔を俯けたまま、二人に一礼しこの場を立ち去っていく。
逃げるようにしてこの場を離れていく私を周りにいたお姫様たちがクスクスと嘲笑っていた。
私は城門を飛び出し、街の中を走った。
本来なら門兵が止めに入るかもしれないが、私だからなのか特に止めることはせず、走り去る私を見送っていた。
賑やかな街を私は走り続ける。
私に居場所などない。
私の両親は幼き頃に他界し、今は兄が小国の王となっているが、私は自分の故郷でも厄介者扱いだったのだからーー
私には何も残ってはいない。
薔薇の髪留めさえも失ってしまったのだから。
気がつくと私は裏通りを通っていた。
辺りを見回すと、薄暗い道が前方に続いている。
我に返り、冷えきった裏通りに自分の体が身震いした。
「面白い仮面だぜ、ひひっ」
何処からか声がし、私は立ち止まり辺りを見回したが、誰一人周りにはいない。
どくんどくんとざわつく心。
恐怖で足がすくんでしまう。
一歩後ずさった時であった。
途端に首筋に強い衝撃を感じて、世界がぐらりと揺れて落ちた。
その拍子に顔を覆っていた仮面が落ち、遠退く意識の中で割れているのが見えたが……そこで私は気を失った。
シャルン様ーー
私はもうシャルン様のお側にいてはいけないのですね。
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