心は離れていく

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ーー*ユナンside*ーー シャルンの国へ向かおうとしている矢先に、街の外れにある使われていないような古びた小屋で三人の男性がこそこそと何かをしている。 盗賊だろうか。 手足を縛られ、口を布で覆われている少女がチラリと見えた。 人を売る盗賊がいると聞いていたが、本当に実在していたのかーー 俺は急いで盗賊の元へと駆け、移動しようとしている盗賊たちの行く手を遮った。 「何をしているのか分かってるんだろうな?」 盗賊たちは息を呑んで後ずさった。 顔を恐怖で引きつらせている。 俺の後ろから続々と駆けつけてくる兵士たちが見えたからだろう。 「ユナン様お怪我はありませんか?」 「ああ、何ともないさ」 一人の兵士が俺にそう訊き、それに対しニヤリと笑ってみせた。 ことごとく痛め付けられた盗賊たちは大人しく俺の兵士たちに連行されていく。 今日は兵士たちをたくさん連れて来て良かったと俺は思った。 盗賊たちに捕らわれていた少女は気を失っているようだった。 倒れている少女へ近づき、手足の縄と口を覆われている布を外した。 それから気を失っている少女の体を優しく揺する。 「……ん」 少女の瞼が静かに開く。 そこで俺はハッとなった。 蜂蜜色の艶やかな髪に太陽のような大きな目元の蒼い瞳を覚えていたからだ。 「大丈夫?」 俺がそう問いかけるとその少女は少し警戒しているのか起き上がり、俺から距離を取ろうとしていた。 そんな少女に俺は両手を上げ、笑ってみせる。 「驚かせてごめんな。俺は盗賊に捕らわれていた君を助けたんだ」 「…………」 俺の言葉に警戒しながらも訊く美しい少女。 そして少女は戸惑いながらも口を開く。 「ありがとう……ございます」 鈴を転がしたような可愛らしい声で小さく言う美しい少女に俺は軽く笑った。 「怖かったよな、もう大丈夫だから」 俺は優しく微笑み、彼女と目線を合わせるようにすると、少女の表情が少しだけ和らいだのが分かった。 「君ってあの時パーティーにいたお姫様だよね?」 「………」 俺がそう訊くと少女はふと顔を俯ける。 何処か悲しげな表情の美しい少女。 「私……分からないのです。何も……」 震えながらそう答える美しい少女。 美しい少女はーー 全ての記憶を失っていた。 名前も何処の国で生まれたのかもーー 全てをーーー
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