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私は立ち上がり、シャルン様と一緒にたくさんの花壇を見つめていた。
あの時の菜の花を二人で見ていたのを思い出す。
少し離れて二人で見ていた菜の花。
何も話すこともなく、ただ二人で。
今もただ二人でたくさんの花壇を見ている。
話すこともなく、ただ二人で。
それなのに、あの時とは全然違う。
シャルン様の肩がほんの少し私の肩に触れている。
ほんの少し。
ほんの少しなのに、シャルン様に触れている肩が熱い。
高鳴っていく鼓動を抑えることが出来ない。
手を、繋ぎたい。
温かくて優しい大きなシャルン様の手を。
ーー駄目です!
これ以上、欲張ってはいけない。
私はもう十分幸せなのだから。
チラリと横目でシャルン様を見上げると、あまりの美しい横顔に顔が急激に熱くなった。
慌ててシャルン様から視線を外し、もう一度ゆっくりと横目で彼を見る。
するとシャルン様の淡い空色をした髪に一匹の可愛らしい白い蝶々が止まっていた。
それが何だか可愛い髪止めに見えて、私は思わずクスクスと声に出して笑った。
顔を少し険しくさせ、私を見るシャルン様。
まだ彼の髪に一匹の白い蝶々が止まっている。
「申し訳ありませんっ……シャルン様の髪に蝶々が」
私は笑いを堪えながら説明するが、笑いがおさまらない。
困ったように顔を少し険しくさせるシャルン様がとても可愛らしく見えてしまう。
「………笑うな」
そう言ったシャルン様の髪にまだ白い蝶々が止まっていて、少し困ったような表情を浮かべるシャルン様がとても可愛い。
シャルン様は頬をほんの少し赤くさせ、まだクスクス笑う私を険しい顔つきで見ていた。
私の笑いが喉の奥に消え、シャルン様に止まっていた白い蝶々が何処かへ飛んでいった時、私へとゆっくりと手を伸ばすシャルン様が目に入った。
私の髪に優しく触れ、じっと私を見つめる涼しげな目元の黒の瞳。
その黒の瞳の奥はとても優しい。
見つめられ、私の鼓動が爆発してしまいそうだった。
「……シャルン様?」
私の声にハッとしたような表情を浮かべるシャルン様は手を引っ込めるようにした。
顔が熱い。
とてもとても。
それと同時にとても嬉しい。
「シャルン!シャルンー!」
遠くから聞こえてくる女性の声に私はドキリとした。
この声は先ほどシャルン様の私室から聞こえてきた声だ。
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