交錯する想い

5/10
前へ
/488ページ
次へ
ーー『後で行く』 リィーラ様にそう言ったシャルン。 そんな彼を私は驚きの表情で見つめる。 シャルンの黒の瞳は相変わらず冷たく輝いている。 けれど、その眼差しは優しい気がした。 リィーラ様を見るシャルンの瞳がーーーー 知らない。 私はこんなシャルンを知らない。 途端に貴方を失いそうで怖くなった。 側から離れていってしまいそうで、とてもとても怖くなった。 私には向けられたことのない貴方の眼差し。 これ以上見ないで。 他のひとを見ないでくださいませーー 「シャルン?」 優しい眼差しをリィーラ様に向ける彼の横顔に私の心がチクリと痛む。 「早くシャルン行きますわよっ」 乱暴にシャルンの腕を引き、この場を早く離れるようにそそくさと歩くようにした。 シャルンは何も言わず、私に着いてきてくれる。 シャルンの私室へと戻り、私は勢いよく彼へと振り返った。 心の中がモヤモヤする。 気持ちが悪くて、目眩さえしてしまうほど。 「シャルンお願いがありますのっ!リィーラ様の元へは行かないでくださいませーー」 言ってから呼吸が荒くなり、胸に手を当てて自分を落ち着かせるようにした。 シャルンは驚くこともせず、静かに口を開く。 「何故だ?」 「お願いですわ……今日だけ、今日だけで良いですの。私の、お願いを聞いてくださいませ」 私の声が、震える。 どうか私の願いを聞いてほしい。 遠くへ行かないでくださいませ。 「……分かった」 静かにそう告げるシャルンの声は何処か冷たく、呆れていたような気がした。 それでも、リィーラ様ではなく私を選んでくれたことに私は嬉しくなった。 でも、シャルンの黒の瞳が何故か悲しげに輝いていたような気がした。 どうしてそんなに悲しそうな目をしていますの? そう聞けずにいた。 聞いたら自分自身が傷ついてしまいそうで怖かったからだ。 言葉で引き留めることが出来ても、貴方の心を引き留めることが出来ない。 それから、リィーラ様の部屋に行かなかったシャルン。 どうして部屋に来なかったのかそれを気にしているのかリィーラ様はよそよそしくなっているらしい。 二人で会っているという情報は今のところない。 リィーラ様はシャルンに裏切られたと思っているだろうか。 それでいいーー シャルンは私と婚約するのだから。
/488ページ

最初のコメントを投稿しよう!

754人が本棚に入れています
本棚に追加