第四章

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 俯きそうになる度に前を向いていたら、ふいに見慣れた顔と目が合った。煌びやかな人たちに紛れていても、やっぱり目立つ。絵本から飛び出してきた王子が、二メートルくらい離れたところから、少し驚いた様子で、けれどすぐに微笑みを向けていた。  俺は胸にこみ上げてくるものを感じながら、それを抑えて言葉を続ける。 「俺は、人の目が怖くて……今でも本当、ここにいるのが信じられないくらい。立ってるのがやっとで、膝は震えてるし。それでも、彼は……そんな俺と一緒にいるのが面白いって言うんです。なんでも出来るよって、言うんです。簡単に。それで、……自分は何でも簡単にやってのける。だから、俺は勝手に、……あんたは苦労しなくてもなんでも手に入るんだって思ってた」  ルイは目を見開くと、口を開いて、けれどすぐに視線を落とした。 「でも違った。俺は、あんたが堂々と軽々と、なんでも簡単にやってのけるところが好きだから、そう思い込んでただけだ」  再び、目が合う。戸惑うような、困ったような顔で首を傾げる。その仕草が好きだと思った。 「俺は多分、これからもずっとビビりだし、今だって逃げ出したいくらいだけど、あんたが出来るよって近くで言ってくれたら、……俺はほんのちょっと、……少しだけ、出来る気がするんだ」  こんなこと、口にするのは恥ずかしい。心臓はいかれたように鳴っている。でも、言わなきゃきっと後悔すると本能で感じた。  いつだったかルイが言っていた。失敗しないと学べないって。今なら、それを信じたい。次に正解を選べるように今まで失敗してきたって思いたい。 「大海原に旅立つのも、沈むのも……あんたがいたらきっと、怖くないと思うんだ。だからッ」  喉が苦しくて言葉に詰まると、俺は耐えられずに俯いて唇を噛んだ。
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