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「すごいね。たくさん友達がいるんだな」
感心した調子の男に、俺はつい気をよくして背筋を伸ばす。
「ま、まあ、このゲームの中じゃちょっと名前も知られてるっつーか」
口にしてすぐに、女の子として、と心の中で付け足す。
最初からネカマになって騙そうと思っていたわけじゃない。けれど皆に姫と呼ばれてチヤホヤされるのは、日常では味わえない満足感があるのだ。今さら男とは言い出せない。
男は一通り見て満足したのか、自分の携帯を確認してからふと手を差し出した。
「じゃあ僕は帰るよ。その前に」
「え? ……えっと?」
まさか握手かと思い、恐る恐る手を乗せようとすると彼は首を傾げた。
「違う。携帯貸してくれ。大家に文句言うから」
「え、でもそれ、携帯」
「僕の電話は大家に繋がらないんだ。もう随分と前からね」
俺はため息をついて、自分の携帯を渡した。もしかしたら幽霊が出る部屋だった方がましだったかもしれない、なんて思いながら。
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