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蚊のなくような声で答えたので、きっとまた聞き逃すかと思ったのに、彼はへえっと感心したように声を上げた。
「家から出なくていい仕事なんていいねえ。君は動物のナマケモノに似ているから、そういう仕事がよく似合うよ」
「は? ナマケモノ?」
俺の言葉に答えるというよりは、ほとんど独り言のように、彼は歌うように恍惚と話しはじめた。
「僕は子どもの頃にナマケモノを見てからずっと好きでね、可能ならペットにしたかった。臭いから諦めたけれどね。昨日の君はとてもナマケモノらしかった。僕は幸運だな」
物乞いのゴラムが、彼にはナマケモノに見えていたらしい。良いような、不名誉なような、ちょっと判断が出来ない。
(っていうか、なんでこの人……俺の部屋でこんなくつろいでんの?)
目の前の男は傍若無人というか、もはや宇宙人の域で、俺の理解を飛び越えている。おかげで俺の苦手な大人像から離れて、少しなら視線を向けても大丈夫な気がしてきた。もちろん、すぐ外に逃げ出せるように警戒は怠らないけれど。
「それで、さっきから君のパソコンに映っているのは何だい?」
「へ?」
振り返ると、いつかのタイミングでスリープモードから起動したらしくゲーム画面が開いている。
彼は身をかがめて覗き込んできて、ふわりと昨日と同じ複雑ないいにおいがするから、別の意味で鼓動が速まった。
「げ、ゲーム」
「楽しいのかい?」
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