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『お兄ちゃん、それ直しなよ。まじで』
「うるせー。下の階の人には普通に挨拶できたし」
『それ、どうせおばあちゃんとかでしょ?』
高校生の妹、二美に図星をつかれてぐうの音も出ない。週に一度の電話は決まって真夜中にかかってくる。親からの連絡係だ。
『まともな大人に緊張するとか、まじで世の中で生きていけないよね。だから友達もいないんじゃない』
「い、いや、そんな年上っぽかったわけじゃ……いっても三十くらい」
『いや、そんなのどうでもいいけど。何、じゃあ若い人? スーツでも着てた? そんなんだから彼女出来ないんじゃん』
「うるせーよ。彼女とかいらねえし」
『やだ。もしかしてまだネットのゲームで女の子のふりしてんの? 何て言うんだっけ、ネット……』
「ネカマ」
『キッッモイから、まじで』
最近「まじで」が口癖の彼女は、隙あらば俺のダメ出しをしてはわざとらしくため息をつく。
確かに俺は困った悪癖を抱えている。対人、というより大人恐怖症とでもいうべきか、一定の大人が苦手なのだ。社会に上手く馴染んでいるような、きちんとした社会人。スーツやネクタイ、落ち着いた身のこなしの人を目の前にすると、一気に緊張してまともに話せなくなる。
普段ならばそのまま流してしまうけれど、今回はついムキになって口を開いた。
「いや、あれは誰が見たってそうなるって」
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