第一章

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 さっき見た隣人の姿を思い返す。神様に愛されたような見た目と気品、物腰も柔らかくまるで貴族の王子様だ。体つきも日本人離れしていて、ユニクロを着たってパリコレみたいに見えるだろう。対して俺はハイブランドのシャツを着たところで童顔で筋肉もないから学生服にしか見えない。世の中は不平等だ。 『そんなイケてんの。写メ送って』 「ドアから顔半分しか出せない俺が? どこ撮れると思うんだよ。靴かよ」 『まっじで、しょーもない兄貴だわ』  改めて思い出すと、膝立ちでドアの下方から顔半分を覗かせた男が、片手だけ出して乾麺を差し出す図は確かにしょうもない。まるで物乞いをする「指輪物語」のゴラムだ。考えるだけで爆発して死んでしまいたくなる。 「ああ、俺もう引っ越ししたい……二度とあの人に会わないところに行きたい」 『どうせ引っ越した先でも同じことするよ』  我が妹ながら驚くほど真っ当な意見だ。そして残念なことに、二年契約をつい先日したばかり。隣の部屋が全焼でもしない限り再び会うことは免れないだろう。  そしてその日は、思ったよりも早く来た。
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