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――お前こんなことも出来ねえのかよ
――つかえねえ
――もう帰れよ。お前いると余計な仕事増やすだけだから
「――ッ」
翌日。息が止まるような苦しさに目を覚ました。そう暑くない室内なのに寝汗をぐっしょりとかいて、全力疾走したあとのように鼓動が早鐘を打っている。
(夢……夢だ)
自分にそう言い聞かせるけれど、嫌な感覚が残って呼吸は乱れ、指先が震えていた。
もう何度もこんな目覚めを繰り返している。
体を起こすと背骨と首に独特の痛みを感じた。気づけばまたオールナイトでゲームに精を出し、チャットをしている間に眠ってしまったらしい。
(ああ、またやっちった)
正社員の頃なら飛び起きて時間を確認するところだけれど、今はもうその必要がない。軋む首を抑えて、ゆっくり伸びをすると背中に棒のような何かがあたった。
「何か飲むかい?」
「うわあっ」
振り返れば昨日会ったばかりの隣人が、華奢なコーヒーカップを片手に、俺の背後でベッドに腰を下ろして、優雅なティータイムを過ごしていた。
「なっ……な、え?」
咄嗟のことに言葉が紡げず、魚のように口をパクパクさせていると、彼はのんびりとカップに口をつけた。そのデザインはどう見ても俺の私物ではない。
「君は甘党なようだけれど、それならコーヒーじゃなくミルクを飲めばいいんじゃないかな」
「はあ?」
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