第一章

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 関係者全員が知っていただろうに、あえて伝えなかったことに苛立ちを感じながら、けれど目の前で優雅にくつろぐ隣人に文句も言えない。なぜなら目を合わせた途端に、昨日と同じくまともに話せないことが分かっているからだ。 「その様子だと大家から受け取っていないんだな。あとで文句の電話をしてやろう。君には後ほど改めて隣人協定を進呈するから、しっかり読んでサインするんだよ。ところで……君の名前は、正式には何なのかな」 「え」 「昨日はね、どうも怯えているようだったからほとんど聞き取れなかったんだ。ドアも開けたくないようだったし、もしかして部屋に動物でもいるのかなと期待したんだけれど、何もいないね」  男はそれでもまだ疑っているのか、ベッドの下を覗いたりして姿なき動物を探している。当然なにも飼っていない。 「ま、間中、一」 「ハジメ君。よろしく。君は何だい? 見たところ遊民かな」 「遊民?」  聞きなれない言葉をオウム返しにすると、男はウンウンと頷いた。どうやら肯定と受け取ったらしい。 「僕は近くの研究所で実験物理の研究をしているんだけれど、君には理解できないと思うから詳しいことは話さなくてもいいね」 「え、あ、ああ」  確かに、多分俺は理解できないだろうけれど、なぜほとんど初対面でここまで言われるんだろう。強く言い返す勇気もない俺は変に唸るだけで終わった。  その時になって、彼が尋ねたのは職業だと気づいた。 「俺は、ウェブデザイナーです。その……在宅の」
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