第二章

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第二章

「どういうことなんだよ」  一週間後。普段ならやむを得ない場合を除けば決して外出しない日曜日に、まだ布団に入っている早朝からルイが叩き起こし、引きずられるようにして電車に乗せられ三十分。俺は埼玉の山奥に来ていた。  ルイはマウンテンパーカーとカーゴパンツというアクティブな服装に身を包み、ご機嫌でずんずん歩いていく。今まではシャツとスラックスばかりだったので、洋風の見た目と相まってより王子に見えていたが、カジュアルな服に身を包むと品のあるイケメンだ。  俺はといえば、何も聞かされていない上に急かされて着替えたので、着古したジーンズにくたびれた長袖Tシャツで寝癖つき。子どものような仕上がりだ。  眩しい男とこんな貧相な俺が並んでいるのは、傍からどう見えるんだろう。今更ながらに家に帰りたい。 「フミ君から聞いたけれど、マナちゃんは本当に面と向かって断れないんだな」  急に妹の名前が出てきて一瞬言葉を失うけれど、負けじと口を尖らせた。 「言っとくけど俺はまだ電話の件、許したわけじゃないからな」  結局あの日、微睡の中で聞いた会話は夢ではなかった。定時の妹からの電話にルイは勝手に出た挙句、色々な話を聞いたらしい。二美はルイを気に入ったようで、彼女が携帯を手にして以来、受け取ったメールよりもはるかに多い数のメールが、この一週間で届いた。主にルイの情報を尋ねる内容だ。 「そう怒るなよ。チョコ食べるかい?」  そう言ってポケットから取り出したのは、小さな箱に入ったトリュフチョコだ。俺は突っぱねたい気持ちもあるけれど、起きてからなにも食べていないせいで見た瞬間に腹からキュウ、と音が出た。
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