アレ

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アレ

 年明けから不愉快な始まりだった。  原因はお袋からの電話だ。  甥っ子の礼斗にお年玉を渡していないのは、親戚中見回してもお前だけだ、だそうな。  そんな大げさな。  下の従兄弟のヒロキだって渡していないはずだ。  まあ、アイツはまだ高校生だけどさ。  ていうか、そもそも渡さなきゃならないか? 奴はまだ三歳だぞ。  いや、金があれば渡したいよ。でも無いんだもの。手元に全然お金が無いの。バイトも年末に首になっちゃったしさ。  俺がお年玉を貰いたいぐらいだよ。  とりあえず、神様に大金でもお願いしてこようかな。  なけなしの小銭でさ。    てなわけで、不愉快な気分のまま俺は家を出た。  おんぼろアパート「ライラック荘」の錆びが浮いた階段を下りて冷たい空気の街に出る。  お世辞にも治安が良い場所じゃないし、隣の部屋の奴は四六時中タバコふかしてる。木造のアパートで。それに、反対側の部屋からはケンカの声が絶えないと来たもんだ。  そんな悪辣な環境だけど、とりあえず家賃は安い。  それに越したことは、今の俺には無いんだなぁ。
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