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その夜。 いつもの倍くらいの早さで飯を食べきった俺は、誰とも顔を合わせず、急ぎ足に二階の自分の部屋へ入って行った。 母親が驚くほどの敏捷さである。 バタン、と戸を閉めると、ひっそりと息をつく。 それから、パチンと?を叩いて、押入れの中から布団を引っ張り出した。 下に放り投げて、そのクシャクシャへ飛び込む。 ボフン 手で布団を握りしめたまま寝返りを打って、自分をくるめた。 一瞬の沈黙。 それから俺から発せられたのは、ガキ大将失格の代名詞とも言える、嗚咽だった。 「ぐ、う、う、う……ううう」 本来なら、男は深い情というモノに触れた時、初めて泣くことができるのである。それは男特有の涙であるから、まんま男泣きと言う。 しかし、今回は違った。違うからなおさら必死に堪えるのだ。堪え切れないから音が漏れるのだ。 「ふ……、んっ!くそぅ………」 悔しかった。これほどの屈辱が、他にあるものか。 布団が濡れていく。せめて自分を除く世界中全ての人にこのことを悟られまいと、足先にまで力を入れる。 あんな酷い奴。どうして素晴らしいと思ったんだ?大人に隠して自分を貫くだぁ?堂々としてなけりゃ男じゃねぇじゃんか。あいつは邪道だ。敵だ。悪の塊だ。最低の人間だ。いや、もはや人間のクズだ。違う違う!人間ですらない!奴は卑怯な虫ケラだ。へっ! 心の中で言えるだけ馬鹿にしたが、涙は止まらない。なんて情けないんだ。 ゆとりの代表?それもやり方?くそったれ!テメェはこれっぽっちも理解しちゃいねぇ!! だが、何より一番口惜しいのは、そんな奴を、奴の生き方を、一瞬でもカッコいいと思ってしまったことだ。あり得ない!あの時の自分にげんこつを一万億発喰らわせたい。 ……俺が鬼になった後は、まさしく地獄へ迷い込んだようだった。 あいつが俺に対して喋ったのは、わずかに「数える必要なんてねぇよ」である。 10秒のカウントが要らない?!どういうことだ。 俺があいつを見ると、奴は手を小招きしながら「どーせ無理だから。早く追いかけてこいよ」と言い放ったのだ。 侮辱。それは最大の侮辱だ。相手の実力が自分より劣っていると感じた時であっても、対等な条件で戦うのが道理。しかしそれを奴は外して、ハンデを受けると宣言したのだ!!!
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