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俺はもう、我を忘れて詰め寄るようにそんな奴を追った。
沢山だ。もう沢山だ。
さっきあんなに晴れやかな気分にさせておいて、尊敬させておいて、この落差とは。全部計算済みだったのか。相手の心中を測り知って計画にはめるなど、人間としては認められない。
だが、俺にはまだ希望があった。そう、奴にすぐさまタッチすることである。
タッチできると言うことは、相手以上の実力を有しているということになる。
前に俺はあいつに捕まっているから、同等程度の実力者だと認められる予定だったのだ。
「…いてっ!こらっ!!」
まただ、またポチだ。
横から体を滑り込ませるようにして行く手を阻む。
急なことだったので、俺は止まれずに、膝をそこへぶつけてしまった。
「キャウン!キャン!…ゥワン!ワンワンワンワンワンワンッ!!!」
「あー、ひっでぇな!ポチの腹を蹴飛ばしやがった!!」
すぐにも、違う!と言いたかった。こいつが飛び出してきたのがいけないのだ。俺に非はない。
しかし、蹴ったことには蹴ったのだ。
ポチは俺の足に自らぶつかりにきたわけではない。俺が止まれなかったから、前足を挙げた際にぶつかったのだ。
ああ!思い出しただけで歯ぎしりしてしまう。なんて阿呆な作戦だろう!なんて……。
俺は、あいつに追いつけなかった。
「来いよ、ほら来てみろよ」とこっちを向いて手を叩き、ニタニタとゲスい笑いをしながら後ろ向きに走る奴に、どうしても近づけなかったのだ。
なぜなら、俺の周りをポチがぐるぐる回る。
犬を蹴り上げて突き進む程の豪胆さは、俺にはなかった。
それで散々遊ばれて、息が途切れ途切れになるくらいにまで付き合わされた挙句、あいつは突如「じゃーな」と言い残して、そばの家へ消えて行ったのである。
すると、ポチも俺への妨害をやめ、どこか別の場所へ走って行ってしまった。
残ったのは、呆然と立っていた俺と、冷ややかな風。
……それだけでもあり得ないほどの辱めだ。丸太ん棒で20回叩かれるのよりもはるかに辛かった。
だのに!!まだあったのだ。あいつのクズな性格が。
………迷っていた。
道が分からなくなっていたのだ。
ポチに注意して、下ばかり見つめていたために、奴を睨みつけることも、言い返すこともできなかった俺だが、まだこんなカラクリがあったとは。
日が沈むまでには十分な時間があるが、どこへ行けばいいのか、からっきし不明である。
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