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時間は刻々と過ぎる。
見慣れない場所だ。まさかここは、河井郊外?!
そんな、嘘だ。だって奴は河井の………。
しまった。思い出したのだ。あいつが発した言葉を。
「ゆとり世代の、代表ーーーー」
確かに、河井の人間だとは言ってなかった。
だが、まさか郊外からの刺客だったとは。その可能性は、1ミリも俺の頭になかった。
「ヨソ者だったんならまず、名乗らなきゃダメだろ……………」
どれだけズルいんだ。
これは目を覆うほどの有り様。あまりにやり過ぎている。
「あ、あ、あいつぅ……」
何度奴の家へ飛び込もうとしたことか。
だが、その度に思いとどまり、乗り越えられる程度の高さの庭戸を引っ張った。
あんな奴に構っちゃいけない。非道なんかと戯れてると、こっちまでおかしくなりそうだ。やめておけ。もっと有意義に、そうだな、まずルートを見つけるべきだ。
俺の管轄である河井と、そう離れた所ではないだろう。だから高い所なんかに上って、そっちに神経を注ぐべきだ。
何度、石を投げつけようとしたか。
ダメ。ダメダメダメ!それはいけない。感情を相手にぶつけずに、その建物にぶつけてどうする。そんなことをすれば俺だって奴と大差ないじゃあないか。いつもは絶対にこんなこと考えないってのに!馬鹿!馬鹿!いい加減にしやがれ!!
首を振りまくって、冷静になろうとすればなろうとするほど、自分が置かれた状況をまざまざと認識させられて、その度に、またカッカしてしまう。認めたくなかったのだ。こんな罠に掛けられていただなんて。
「は、ああああああ!!!!」
込み上げてきたものをかき消すために、目を強烈に閉じ、両拳を脇の下で引き、腹筋に力を入れて、叫ぶ。
そして、もう奴の家なんか一瞥もせずに、疲れが襲い来る足を動かし動かし、やっとのことでそこから離れた。
しかし、やっと奴の家をまるで感じさせないほどの距離を来たという頃、俺は目が回る思いだった。
こんな所も、知らねぇ。
元来た方向へ進んだのなら、どんどん見慣れた風景に切り替わっていかなければおかしいはずである。
つまりこれは、どんどん河井から離れて行っていることを意味していた。
……どうすれば良いんだ。
ああ、また焦った。これだ、この慌て方だ。もっと落ち着いて堂々としてなくちゃいけないのに、何度もこんなにワアワアしてしまって、パニック状態でトラップに落とされていたのである。
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