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しかし、この犬は人に飼われてから数年のうちに大変有名になってしまう。
その話をしよう。……私も、小さい頃に祖父に聞かされたものだ。
それはずいぶん昔、まだハガキの切手が52円で事足りていた頃のことである。
ここの近くに河井という地域があった。
現在もその名は健在であるが、一年前の市町合併で坡松市に取り込まれたような形となり、すっかり息を潜めてしまっている。が、河井団地という場所は知られているだろう?ちょうどあの辺りの出来事さ。
そこに、健太という男の子が住んでいた。
その子はいつも外をほっつき回って、河井の隅々をパトロールしていた。
俗に言う、ガキ大将というやつで、確かに子分も数人いたそうだ。
だが、彼らは喧嘩をあまり好まなかった。
税金も5%と控えめだったから、心に余裕があったのかもしれない。
ただ単純に、鬼ごっこやドッジボール、サッカーにハンドベースといった遊びを行う毎日を送っていたのだ。
それでも、その子分達は時によって集まらないこともあった。
それは、ゆとり教育の波がすっかり過ぎ去った影響を受け、いつぞやのそろばん教室やら塾やらが再び脚光を浴び、台頭してきたことによる。
つまり、習い事のせいで外遊びの時間が制約されるという由々しき事態も発生していたのだ。
こんな時、健太は決まってそこら辺をテキトーにぶらつくのだった。
そんなある日、彼は少し機嫌を悪くしながら歩いていた。
「ちぇっ、何だよ。どいつもこいつも時間が取れない時間が取れない、って。馬鹿にしてやがる。取れないなら作ればいいじゃねぇか。土日まで削ぎ取られるなんて酷すぎる。そんなトコ、さっさとやめちまえばいいのに」
無理だと分かっていながら、呟く。呟かなければしょうがない。
「…悪いのは大人なんだ。若い頃は一度きりとか言いながら、結局やりたくないことをさせるクセして、やりたいことを叱る。何なんだ、一体何が言いたいんだ」
無意識に、そこにあった小石を蹴る。
ズボンのポケットに手を突っ込み、じっとコンクリートを睨みつける。
だが、腹を立てていてもあいつらは戻って来ない。
考えるにつれ、自分がとてつもなくちっぽけな存在だという気がしてきて、悔しさばかりが募ってくる。
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