1人が本棚に入れています
本棚に追加
それでいよいよ頭にきて、大声で叫ばなければ鬱憤を晴らせなくなってきた時のことである。
健太が鼻から息を吸って顔を上げると、一人の背の高い男が見えた。
「」
ブスーッ、と溜めていた空気を抜き出す。
危ないところだった。知らない大人がいる前で叫ぼうだなんて、とんだヘマをしたもんだ。未遂に終わったから良かったものの、もうちょっとで大恥をかくところだった。俺らしくもない。
あぁ、ウズウズする。どこか一人ぼっちになれる場所でも探そうか。そうしている間にほとぼりも冷めてくるかもしれないな。
めいいっぱい顔を下に向けて、その男の前を通り過ぎようとすると、急に声がした。
「あの、ちょっとすまんけど」
「!」
思わず顔を上げてしまう。
今の言葉、俺に対して放ったものなのか?
「あんた、怒ってんのか?」
「はぁ??!」
声を荒げる。いきなり何を言いだすかと思えば。
「ほぅら。やっぱ怒ってた」
痩せぎすのその男は、嘲笑うようにそう言った。
「……っ。それがどうした」
知らない相手になんて態度だ。
俺がタイマン好きだったら、早速勃発しているところだぞ。
因縁がむくむく芽を出すのをやっとの事で抑えて、冷静に聞き返す。
「いやね、その歳でストレスを溜め込むって可哀想だなぁと思ってさ。全く、近々の社会はどうかしてるよ。数年後に増税が実施される可能性もあるらしいしね」
「………」
漂うこの不敵感。間違いない。こいつ、ゆとりっ子だ!
「ねぇ、あんた、どーせ暇してるんだろ?……どうだ、俺と鬼ごでもしねぇか」
「鬼ごっこだとぉ。望むところだ…」
最初から戦うつもりだったってことか。
俺は目をギラギラさせながら、敵を隅々まで観察する。
背は高いが、脂肪や筋肉はなさそうだ。これじゃすぐに捕まえられるだろうな。怪我しても知らねぇぞ。
「じゃ、どっちが鬼になる?」
「もちろん、じゃんけんだ。でもお前、後悔するなよ!」
「はは、分かってるさ」
これだ。この『僕私の人生、既に楽勝ロードへ一直線』っていうゆとり特有の錯覚。
覚悟があるのは認めるが、それだけじゃ足りない。
モノホンの、平成のガキ大将を舐めるなってんだ。
「「最初はグーー!!!」」
一瞬、『最初はパー』という必殺技で倒してやろうとも考えたが、そんな恥ずかしいことできるものか。男なら正面から一本勝負だ。
最初のコメントを投稿しよう!