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それでいよいよ頭にきて、大声で叫ばなければ鬱憤を晴らせなくなってきた時のことである。 健太が鼻から息を吸って顔を上げると、一人の背の高い男が見えた。 「」 ブスーッ、と溜めていた空気を抜き出す。 危ないところだった。知らない大人がいる前で叫ぼうだなんて、とんだヘマをしたもんだ。未遂に終わったから良かったものの、もうちょっとで大恥をかくところだった。俺らしくもない。 あぁ、ウズウズする。どこか一人ぼっちになれる場所でも探そうか。そうしている間にほとぼりも冷めてくるかもしれないな。 めいいっぱい顔を下に向けて、その男の前を通り過ぎようとすると、急に声がした。 「あの、ちょっとすまんけど」 「!」 思わず顔を上げてしまう。 今の言葉、俺に対して放ったものなのか? 「あんた、怒ってんのか?」 「はぁ??!」 声を荒げる。いきなり何を言いだすかと思えば。 「ほぅら。やっぱ怒ってた」 痩せぎすのその男は、嘲笑うようにそう言った。 「……っ。それがどうした」 知らない相手になんて態度だ。 俺がタイマン好きだったら、早速勃発しているところだぞ。 因縁がむくむく芽を出すのをやっとの事で抑えて、冷静に聞き返す。 「いやね、その歳でストレスを溜め込むって可哀想だなぁと思ってさ。全く、近々の社会はどうかしてるよ。数年後に増税が実施される可能性もあるらしいしね」 「………」 漂うこの不敵感。間違いない。こいつ、ゆとりっ子だ! 「ねぇ、あんた、どーせ暇してるんだろ?……どうだ、俺と鬼ごでもしねぇか」 「鬼ごっこだとぉ。望むところだ…」 最初から戦うつもりだったってことか。 俺は目をギラギラさせながら、敵を隅々まで観察する。 背は高いが、脂肪や筋肉はなさそうだ。これじゃすぐに捕まえられるだろうな。怪我しても知らねぇぞ。 「じゃ、どっちが鬼になる?」 「もちろん、じゃんけんだ。でもお前、後悔するなよ!」 「はは、分かってるさ」 これだ。この『僕私の人生、既に楽勝ロードへ一直線』っていうゆとり特有の錯覚。 覚悟があるのは認めるが、それだけじゃ足りない。 モノホンの、平成のガキ大将を舐めるなってんだ。 「「最初はグーー!!!」」 一瞬、『最初はパー』という必殺技で倒してやろうとも考えたが、そんな恥ずかしいことできるものか。男なら正面から一本勝負だ。
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