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「「じゃんけんポイッ!!!」」
ブン、と音が鳴りそうなくらいの勢いでチョキを出す。ただ、実際のところを正直に話すと、空を切ったような音は聞こえなかった。俺程度の気合いでは、まだ理屈の岩をぶち抜けなかったようだ。精進しなくちゃいけない。
それでも!俺は転んでもただでは起きねぇぞ。
目の前では、あのもやし男が五本指をかっ開いていた。
「……」
「ふははは!どんなもんでぇ!お前が鬼だぞぅ!!」
「くっ、何とでも言え。本命の勝負はじゃんけんじゃなくて、鬼ごっこなんだ」
「はは!!負け惜しみしてやんの!勝負事はぜーーんぶ勝たなきゃダメだろ!」
知らない相手には慎重に、というルールは、俺の頭から完全に吹き飛んでいた。
落ち着いていないと、ドツボにハマるというのは、子供の間で常識となっていたと言うのに。
「……仕方ない。それじゃ、俺が今から10数える間に、せいぜいお前は逃げるんだな。すぐにでも捕まえてやるから」
「ははん、やってみるがいい。…で、どこまでが逃げれる範囲なんだ?」
「範囲?へへへ、逃げる場所を限定してくれるってのか?そんな枠組み要らねぇんだよ。どこまででも走りやがれ」
「言ったな!!お前、言ったなぁ!!!」
「言ったともよ!どこ行ったって無駄だぜ?あっちゅー間(あっという間)にタッチしてやるよ」
「くそおおおおおお!!!!」
ゆとりにも程がある。
俺の脳細胞は急な温度の上昇で悲鳴を上げているようだった。耳先まで真っ赤っかだ。
こいつがどうしてそんなに余裕ブッこいてるのか、気になるところではあったが、それさえも俺のポンコツ頭が勝手に『ゆとり後遺症』として処理してしまっていた。
その原因は、以前から、ゆとりの奴らには絶対に負けられないと強く心に決めていたことにある。
あんなナヨナヨした連中、百人でかかってきても返り討ちにしてやる、と。
しかし、今俺の目の前に立っている男は、あろうことかキビシー教育をくぐり抜けてきた俺という人間に向かって飄々としてやがる。
…許せん。夢ばかりを見るのも今日で最後にしてやる。社会の恐ろしさを、肌で感じてもらわねぇとなあ!!
「じゃ、ボチボチ数え始めるから。あんた、どこへでも行ってな」
「よし来た!絶対に俺のことを追いかけろよ。途中で諦めたら承知しねぇぞ!泣いたって知らねぇからな!!」
「はいヨォ、さっさと行きな。この野郎」
「ようし!!」
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