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鱗が、剥がれ落ちるようだった。バラバラと。
まるで、今まで溜まっていた垢が、綺麗さっぱり流されたような、そんな錯覚に陥り、軽く陶酔する。
「俺はそう決めたんだ。親がなんだ、教師がなんだ!そういう奴らからの圧力を物ともせず己ってのを貫き通さなくちゃあ、いけねぇだろ」
「例えば…?」
「へっ、まだ分からねぇのかよ」
その男は人差し指で鼻をすする。
「俺の両親はな、まだポチの存在を知らないんだぜ」
「は??!!」
「ずっと、細路地で世話してやってんのよ。そんなのでよくもまぁここまで成長できたものだけどな」
「くっ、食いモンは……」
「最初は俺の食事からちょびっとずつ抜き取ってたんだがな。好き嫌いしなかったから扱いやすかったぜ?濃い味付けにネギとかそこら辺を除けば、すぐにやれるんだからよ。で、それから、この頃は、ドッグフードをちゃあんとやってるぞ。こっそり買って来て」
それは、自分の小遣いから抜き取っているのだろうか。
俺が不審げな顔をしていると、彼はまた意図を汲み取ったらしく、「心配するなよ。盗んでなんかいないぜ?ちゃんと自分でアルバイトして貯めた金だっつーの。それの一部を使って色々揃えたんだよ」と語った。
「………」
まさか、そんなことができるとは。
こいつがやっていることの全て、俺が想像もできなかったことだ。
これまで、ずっと大人に反発しておきながら、それでも、どうしようもないとどこかで諦めていた。
当然だ。住む家や食事を提供しているのは、その大人なのだから。逆らえるはずがない。
だが。そうか、バレなければ何しても良いんだ。あはあ、どうしてこんな簡単なこと気がつかなかったんだろう!
「俺ら子供でもな、できることっつったら山ほどあるんだ。それに目を向けることだな。多分お前なんかは、面倒臭がってたんだろう。自分ではどうしようもないのだと決めつけてしまって、その理由を大人に押し付けてたんだよ」
グサッとくる言葉だ。確かに言われてみればそうかもしれない。大人は確かにゴツい壁になるが、時には助けもしてくれる。だから自分は頼りきっていたのではないか。
「恐れるなよ。何だってやってみなくちゃ、どーもこーも始まんないんだ。俺も大人にはどえらい目に遭わされて来たがな、それでもこうしてやり繰りしてんだよ」
こいつは、凄い。
素直に尊敬できた。俺はその男の前で、しばし目をつぶっていた。
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