第一章 王女の要望

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第一章 王女の要望

 降誕節を控えたある日のこと。その日はこの国の王女、エレオノールの誕生日ひと月前だった。  降誕節の準備も勿論忙しいけれども、王女の誕生パーティーの準備もしなくてはいけない。今度のパーティーはいつもよりも豪華にしなくてはいけないのだ。  やっと成人になる。そんなお祝いの日なのだから。  王女は今度の誕生パーティーで用意するドレスやお茶、それに、当日華を添える歌手を自分で選びたいと思っていた。  理由は簡単。今まで父王や母がそれらを全て選んでいたのだけれども、ようやく大人になる自分が、自分の好きな物を選びたいからだ。  王女は一足早いお祝いの言葉を届けに来た、家臣であるとある領主を部屋に呼び出し、こう命じた。 「アモバン、あなたの治める街からジュエリー職人と仕立て屋、それに貿易商を呼びなさい」  それを聞いた港街を所有している領主アモバンは、少し驚いた顔をしてからおっとりと微笑んで返す。 「かしこまりました。どの様な者がよろしいかのご要望はございますか?」  黒い髪を垂らし、恰幅のよい体をぺこりと折り曲げる姿を見て、エレオノールは身に纏った豪奢なドレスを揺らし、当然と言った様子で答える。「第一に、見た目がうつくしいこと。もちろん技術も確かでなくてはいやよ」  王女の信条は『美即善』だ。うつくしくあることは、全てに優先される。その事を彼女が小さい頃から接しいているアモバンは熟知していた。 「うつくしい事が第一条件、かしこまりました。なるべく早くご紹介いたします」  ぺこりとまた頭を下げそれから少しの間王女と話した後、彼は部屋から下がる。  王女は自分以外の者にもこう言った要望を出しているのだろうかと、考えながら廊下を歩く。  彼が治めている街にはいろいろな職人や貿易商が沢山居る。その中から王女の要望にあった人物を探せばいいと思いながらも、なかなかに難しい注文だなとも思う。  城の廊下を歩きながら、窓から入る光が照らす様々な装飾品。間違えば悪趣味に転んでしまいそうな豪華さだったけれども、上品な華やかさとして纏まっている。  いくら王女の要望とは言え、こう言った装飾を趣味良くまとめている父王も納得するような者を選ばないと王女に悪い評判が立ちかねない。  ちゃんと要望通り、いや、それ以上に答えられるのかどうか。アモバンは少し不安になって、しょんぼりした表情になってしまった。
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