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第五章 オペラ歌手
この国で、音楽に関することを取り仕切っているのは首都にある音楽院だ。歌手も、演奏家も、踊り子も、オペラの舞台に上がるような者は皆ここに所属している。
その音楽院の院長室に、ふたりの歌手が呼び出されていた。どちらも長身で、片方はつり目、片方はたれ目と、そんな違いこそ有れ音楽院の中でも指折りの美丈夫だ。
重々しい雰囲気の室内で、小柄で厳しい顔つきの院長が、ひとり掛けのソファに座った領主に問いかける。
「さて、アモバン様。彼らのうちどちらがよりご要望に添っていますでしょうか」
領主は、サックスの癖っ毛を伸ばしたつり目の歌手と、菫色の髪をきれいに切りそろえたたれ目の歌手との間で視線を泳がせる。彼が歌手を指名しようと口を開きかけたその時。
「あの、申し訳ありませんが、おれは辞退させていただきたくて」
大きな体を縮こまらせて、サックスの髪の歌手が言う。
「王女様の前で歌うなんてその、おれだと相応しくないかなって、それで、あの……」
段々声を小さくする彼を見て、あまり無理を言うのも良くないと思ったのだろう、アモバンはにっこりと笑ってこう言った。
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